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2014-07-31

本年は「ライターズネットワーク大賞」「マイルストーン賞」「ベストワーキング賞」の3つの部門で各1名が受賞しました。

★【ライターズネットワーク大賞】 久能木紀子さん
『出雲大社の巨大な注連縄(しめなわ)はなぜ逆向きなのか?』
(実業之日本社) 久能木紀子 著

★【マイルストーン賞】 片岡恭子さん
『棄国子女』(春秋社) 片岡恭子 著

★【ベストワーキング賞】 田島安江さん
『詩集 牢屋の鼠』(書肆侃侃房) 劉暁波 著/田島安江・馬麗 訳・編

【ライターズネットワーク大賞】
●授賞理由
 著者の久能木紀子さんは、神社ライターとして8年間、1つのテーマをコツコツと追及し続けてきました。その結果が、神社の魅力を一般の方にもわかりやすく伝える新書という形に結実しました。
昨年は60年ぶりの遷宮となる「平成の大遷宮」で、出雲大社に大きなスポットが当たりました。そのチャンスを今回の新書の出版につなげられたのも、ひとつのテーマをとことん追い続けてきた結果であると考えられます。その長年の努力の結晶としまして、「出雲大社の巨大な注連縄(しめなわ)はなぜ逆向きなのか?」に大賞が贈られました。

●受賞者の言葉
 本日は、こんな素晴らしい賞をいただきまして、どうもありがとうございました。
 でも、前の方々のお話を聞いていると、私でよろしかったのでしょうか?(笑)
 思い起こせば、8年ほど前に「神社ライター」と自分で名乗って仕事を始めた頃には、「神社なんてどういう雑誌に載っているの?」とか、「神社だけでやっていけるの?」などといろいろなことを言われていました。それでも、なんとかこうして今、「神社ライター」を続けていられることを、有り難く思っています。
 去年、伊勢と出雲で遷宮がありましたので、ちょっとした神社ブームが起こっております。私が以前、売り込みに行き、丁重にお断りされたような(笑)大きな出版社の雑誌が、現在こぞって、日本の神様や神社の特集を組んでいるのを見ますと、ちょっと悔しいような気持ちになります。
 でもそれは、「私のほうが時代を先取りしていたのだな」と思うようにいたします。(笑)
 今回の本は出雲大社について書きました。出雲大社というのは、光が当たる伊勢神宮とは違いまして、隠された神々であり、謎が大変多く、一部のマニアにとっては大切な神社になっております。私も個人的には、出雲のほうにすごく思い入れがありますので、この本を書かせていただくことができたのは、とても有り難いことだと思っています。
 また、素晴らしいタイミングで、次期の出雲国造(いずもこくそう)の方が、高円宮の典子さまとご結婚されることになりました。一部の人々の間では「神代(かみよ)以来の伊勢と出雲の大合併だ」という風に盛り上がっております。(笑)なお、出雲国造家(いずもこくそうけ)とはどのようなものか?ということに関しては、私の本に詳しく書いてあります。より詳しくお知りになりたい方は、どうぞお読みになってください。
 今日はムック本も持ってまいりました。こちらに伊勢と出雲の対比について書いていますので、ご興味のある方はどうぞお手に取ってごらんになってください。
 最後に私事ですが、3月に父が他界いたしました。今までは実家におりましたので何とかやってこられましたが、これからはこの仕事で生きて行かなければいけなくなってしまいました。お仕事があったらください。(笑)

●選考委員からの講評
 久能木さんは、8年間、神社ライターという世界を自ら切り拓いて、よくやって来られたと思います。その結果が結びついて、出版という形になりました。この8年間の彼女の努力に対して、我々は拍手を送るべきであり、我々の仲間からこういう力のある人が出て来てくれたことがとても嬉しく、おおいにほめたたえたいと思います。
 もともと、ライターズネットワーク大賞は、「仲間が仲間をほめないでどうする」ということから始まりました。そこで、心の底からほめたたえようと、久能木さんに大賞をお贈りいたしました。

【マイルストーン賞】
●授賞理由
 片岡恭子さんの著書『棄国子女~転がる石という生き方~』は、作家として新しい一歩を踏み出したデビュー作です。
 この本は、著者の南米での旅のエピソードが中心のように見えて、実は、この本の真の舞台は、著者の心の内面です。自分自身の内面と真剣に向き合い、その心情の変化を鮮烈に書き表した作品です。著者の人生の中で、自分自身が命を懸けて次の段階に進んでゆく、その過程で一生に一回しか書けない本であり、なくてはならない作品になるだろうということで、マイルストーン賞が贈られました。

●受賞者の言葉
 どうもありがとうございます。
 まず、本を出すのが大変でした。「無名の作家のデビュー作なんか出せない」と出版社に言われましたが、「誰でも最初は、無名でデビュー作なのだから…」と思いました。
 最初にやらせていただけたのは、春秋社のPR誌の連載でしたが、連載になるのも大変でした。
 「1回読み切りで、ぶっ飛んだことを書いてください」と言われて、ぶっ飛んだことを書きました。すると次に、「すごく面白かったので、あと3回書いてください」と言われ、3回ぶっ飛んだことを書きました。そうしたら、また次に「すごく面白かったので、あと3回書いてください」と言われたのです。(笑)
 最初にすごいことを全部集約して書いて、そのあと、3回面白いことを書いて、そのまたあとに何を書けと言うのだろう?という気持ちでさらに3回書いて、結局、紙の媒体には7回書きました。
 その次に、「Webで1年間やってください」と言われまして、壁に頭を打ち付けながら1年間書きました。(笑)
 そして今、本が出版されて半年くらい経ちます。冷静になって考えてみると、「まだまだ書けることあるやん」と思っています。
 中南米が舞台になっていますが、結局は、世界中どこにいようと、ほとんど私の頭の中で考えていることです。中南米の旅の体験の中で、自分自身が考えたことが今回の本の内容になっています。
 今、本を売るのがとても大変です。(笑)本は出版したら終わりではなく、「売らないかんのやな」というのを実感しております。「売れない本は電話帳と一緒や。誰も読まへんのやったら電話帳と一緒や」そう言っています。今、1ヵ月に1回くらいイベントをやって、しゃべって、そこで感銘を与えて、感動してくれた人々に本を売りつけています。(笑)
 11月に立教大学観光学部で臨時講義をします。明日(6月22日)は、下北沢のB&Bでのイベントの打ち合わせです。B&Bさん独自の企画ではなくて持ち込み企画ですので、実現するかどうかは、まだわかりません。(笑)5月8日に池袋のジュンク堂で家入一真さん(実業家・政治活動家)と対談させていただいて、YouTube(http://youtu.be/8oKchuxHcJs...)に動画が上がっていますので、よろしかったらご覧になってください。
 また、新宿のネイキッドロフトというところで、旅のイベントを7年で約30回開催しています。次回は7月26日にやります。スペインのカミーノ・デ・サンティアゴの巡礼の話をしますので、よろしかったらおいでになってください。
 どうもありがとうございました。

●選考委員からの講評
 この本は、片岡さんがいつか書かなくてはならない話だったんだろう、と思います。
おそらくこれから先、片岡さんが書いていく世界は、小説だったり、これまでのものとは違う世界に行くのではないか?と思います。そういう意味で、片岡さんにとっての、物書きとしての1つの「milestone」(標石・重要な節目)になる作品であると考えて、「マイルストーン賞」を贈ろうということになりました。

【ベストワーキング賞】
●授賞理由
 『詩集 牢屋の鼠』は、田島安江さんが共訳・編集を行いました。著者の劉暁波さんは、2010年にノーベル平和賞を受賞した中国の人権活動家です。民主化運動を行ったため、現在も服役中です。彼の詩人としての側面に焦点を当てて、日本で出版した功績はたいへん大きいと考えます。日本の出版界に馴染みの薄い中国の現代詩集に着目し、その翻訳を手がけ、著者の思いをいかに伝えるか?ということに心を砕き、見事に日本語訳を果たした成果がこの本です。その情熱と行動力、使命感が高く評価されました。

●受賞者の言葉
 ベストワーキング賞をいただき、本当にありがとうございます。
 劉暁波さんの詩を訳そうと思ったきっかけは、彼がノーベル平和賞を受賞したときに、朝日新聞の紹介記事の中に載っていた一篇の詩でした。「自分が死んだら骨灰で手紙を書いてほしい」という衝撃的な詩です。それを読んだときに、私は彼の詩をもう少し読みたい、彼の詩を訳したい、と思ったのです。
 ところが、中国では思想統制がありますから、彼の詩集はなかなか入手できませんでした。いろいろと探して、香港の出版社から1冊だけ出ていることがわかり、ようやく入手して、版権を得ることができました。
 次に、日本在住の中国人に翻訳を依頼しましたが、「詩は訳せない」と言われました。それでも、下訳を私が詩の言葉にすれば何とかなるのでは?と当初は考えていました。しかし、73篇の詩の最初の下訳が届いたときに、それが安易な考えだったことに気づきました。
 今の中日辞典はとても素晴らしくて、中国語を勉強したことがない私でも、日本語の読みがあれば辞書が引けて、意味がわかるのです。でも、1行の詩の意味を表現するのは、通常の翻訳とは違います。詩人は、1行の詩に、深い暗喩を込めているからです。
 読んでいるうちに、私は「この著者の人生を深く理解し、この人そのものにならないと訳せない」と気づき、中国に行きました。彼がどこでどういう風に暮らしながらこの詩を書いたのか、彼が住んだところや彼の足跡を求めて、1人で中国を歩きました。そこでいろいろなことがあり、彼の詩ともう一度向き合ったときに、だんだん、その詩の情景や彼の心のようなものが見えてきて、訳すことができたのです。
 73篇もあるので厚い本となりました。私はこの詩を読むと、「世界中の、悲しみに塗り込められている人たちの想いを彼が代弁しているのだ」と感じます。この詩を読む人たちが、少しでもその想いを感じ取ることができて、彼の気持ちに近づいていただけたらいいなと思っています。
 1篇だけ、彼の詩を紹介します。

星の輝きが殺人を企てる―――霞へ
                              1997年6月26日
   白と灰色に近いあわい
   夢がじっと待ちうけている
 一匹の蜘蛛がやってくるのを
 胃に激痛が走る
 ナイフを一丁くれないか
 突如やってくるあのやり方で
 このあがきを終わらせるから

 星の輝きが揺らめき
 眼裏(まなうら)に何一つ見えない
 夢も見ない夜は
 無防備の都市のようで
 謀殺を阻止できない

 裸で飛び起きる
 手をおおって泣きながら体は動くことさえできない
 月光の下の鉄窓(てっそう)は
 ことのほか冷静だ
 まさか空には本当に
 一滴の憐憫の心もないだろうから

 今日はどうもありがとうございました。

●選考委員からの講評
 田島さんが訳された『詩集 牢屋の鼠』は、たいへんな労作だと思います。
 ノーベル平和賞を受賞しながら獄中にいる中国の詩人の詩集が、日本にまだ無かったときに、田島さんは中国語の詩集を探して香港へ出かけ、版権を入手しました。さらに、彼の心を伝えようと、中国を旅して詩人の人生や心を感じてから訳して、本にしました。
 まさにベストワーキング賞がふさわしい作品です。

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